時はさかのぼって2015年

私はジブリ映画
「思い出のマーニー」を観ていました




思い出のマーニー2-1
思い出のマーニー2-2



公開から一年たっていましたが
DVDがレンタルされているのを見つけて、
『あ、そうだ観るの忘れてた…』と
たいした理由もなく観たのですが。。。


その後の
2016年のアカデミー賞のノミネートがきっかけで、
小説版も読んでしまいまして、

小説版写真




思い出のマーニー面白い!


。。。というわけで
調子に乗って関連本も
何冊も買ってしまいました。
関連本写真





色々読んでしまった感想を
ご紹介したいと思います。








原作小説版について↓
『思い出のマーニー』

(おもいでのマーニー、原題:When Marnie Was There)は、イギリスの作家、ジョーン・G・ロビンソンによる児童文学品。
かたくなに心を閉ざした少女アンナが海辺の村に住む少女マーニーとの交流を通じて心を開いていく様子が描かれる。
初版は1967年にイギリスの出版社コリンズより出版され25万部を売り上げた。1968年にカーネギー賞の最終候補にノミネートされた。
1971年にBBCの長寿番組であるJackanoryでテレビ化された。
日本では1980年に岩波少年文庫(岩波書店)より刊行された。
Wikipediaより





「思い出のマーニー小説版」
岩波・新潮・角川の
翻訳ニュアンスの比較


小説「思い出のマーニー」は三つの出版社(岩波少年文庫、新潮文庫、角川文庫)から、それぞれ違う翻訳で出版されております。


みっつとも買って読んでみました。
想い出のマーニー1-1-1


それぞれ、翻訳の傾向は微妙に違うんですよね。

小説版を買ってみようかと思っている方には、三つもあると、どれを買って良いやら迷ってしまうのではないでしょうか。(そもそもこれ以外にも特装版とか子供向けの角川書店のつばさ文庫版などもありますし。。。)

三つとも翻訳の文章のニュアンスに極端な違いがあるわけではないのですが、ご参考までに私が読んでみて感じた印象をご紹介しますと。。。





① 岩波少年文庫版の印象
「思い出のマーニー」の底本!、 岩波少年文庫版

 
思い出のマーニー〈上〉 (岩波少年文庫)
思い出のマーニー〈下〉 (岩波少年文庫)









思い出のマーニー〈上〉 (岩波少年文庫) [単行本]
ジョーン ロビンソン
岩波書店

思い出のマーニー〈下〉 (岩波少年文庫) [単行本]
ジョーン ロビンソン
岩波書店




①-1
児童文学あまり読んだ事のないワタシ





この岩波少年文庫版は、あくまで『岩波少年文庫』なので、対象は少年少女。そもそも私のようなあまり児童文学になじみのない人間が読むと、最初はちょっと文章のクセが強いと感じてしまいました。



冒頭部分↓
ミセス・プレストンは、いつもの心配そうな顔つきで、アンナの帽子をまっすぐになおしました。
「いい子にしてね。愉快にくらしていらっしゃい。そして……、そう、日にやけて、元気にかえっていらっしゃい。」 こういうと、ミセス・プレストンは片手をアンナの体にまわして、さよならのキスをしました。こうすることで、アンナが、”あたたかく安全に守られ、大切に思われている”と感じてくれるようにねがいながら。
 けれども、アンナには、ミセス・プレストンがそう感じさせようとして、そうしているのがわかりました。 ――やめといてくれればいいのに――と、アンナは思いました。かえって、二人の間に壁ができてしまって、もう、ふつうに、さよならがいえなくなりました。
(中略)
キスもせず、だきつきもせず、アンナはかばんを持って、体をかたくして、あいたままの客車のドアのそばに立っていました。そして、自分が、いつもとかわりなく”ふつうに”見えるといいのに……、そして列車がさっさと動き出してけれればいいのに……、とねがっていました。


誰も会った事がない筈のマーニーの、込み入った事まで妙に良く知っているアンナに対して、リンゼー兄弟の長男アンドルーが言ったセリフ。 ↓

「おお、"ふしぎな人"アンナよ!」とアンドルーがいいました。 
 


マーニーが、アンナに永遠の友情を誓うシーン ↓

マーニーはアンナのウエストにぱっと両手をまわしていいました。
「あたしが、それほど、あなたみたいな人と遊びたいと思っていたかわからないでしょうね!ねえ、アンナ、いつまでも、あたしの友だちでいてくれる?いつまでも、いつまでも――?」
そして、マーニーは、二人のまわりの砂の上に円をかいて、手をにぎりあって、永遠の友情をちかいあうまで、満足しようとはしませんでした。
アンナは、生まれてこのかた、こんなに幸せだったことはありませんでした。 
 





①-2
「昭和」を思い出す



もともとの原書の初版が50年前。そのため三つの版とも全体として時代がかった表現が多いのですが、 。。。ちょっと面白いと思ってしまったのは、この岩波少年文庫版が出版されたのは、四捨五入して40年前、昭和55年(1980年)。特にちょっと昭和っぽい、今ではあんまり見ない表現が多めなところです。



アンナとマーニーが初めて出会ったシーンより
でも、女の子はアンナを引き止めました。
「だめ!行っちゃだめ!そんなおばかさんにならないでちょうだい。あたし、どうしても、あなたと知り合いになりたいの!あなたは?あなたは、あたしと知り合いになりたくない?」
↑「お馬鹿さん」が一般的だったのは、新谷のり子さんの歌『フランシーヌの場合』、もしくは細川たかしさんの『心のこり』、あたりの時代まで?  …ちなみに、「お馬鹿さん」という語句自体は、新潮文庫版も角川文庫版にも出てきます。



ペグおばさんが、ビンゴ大会に出かけるシーンより

「さあてと、くつはどこだったかしらん。」

『かしらん』という言い方も、あんまり最近見ませんね…。 昔、「ドラえもん」のマンガの中でよくこの言い回しが出てきていたような記憶が…



美しいマーニーを見つつ、アンナが思った事
マーニーにくらべたら、
あたしは、あたしはおにばば――
今で言うなら、「ヤマンバ」…というところ??(「ヤマンバ」も結構古いだろ!)



「かどっこ屋敷」のサンドラに、アンナが放った一言

ふとっちょぶた
 
 
今で言うなら…、サンドラの髪色の記述はないのですが…もし金髪だったら…、金髪…『金髪豚野郎』…???(それもちょっと古い)





①-3
「児童文学」とは何かを思い知らされる



。。。などと、などとしょうもないことを書いてしまいましたが、無論、言葉の古い・新しいは枝葉末節の話。
表現の仕方そのものは、三つを読み比べてみて、岩波文庫版が一番あか抜けているのではないかと思います。

例えば、最初に引用した冒頭部分の、アンナが列車の乗降口に立っている場面。不安感や疎外感の表現として、「キスもせず、だきつきもせず」という書き方は「オシャレ」だと思いました。
そういう感想を持つ部分が岩波版は多かったです。



確かな表現に裏打ちされつつ、品行方正な「ですます」調、ちょっと大げさに感じる情感豊かな文体。
この読者に語りかけるがごとき感触こそが「児童文学」というものなのですね。。。


それがまさに、この岩波文庫版の魅力なのだと思いました。





さらに、掲載されている挿絵は、作者であるジョーン・G・ロビンソン氏自身によるものです。 

思い出のマーニー〈上〉 (岩波少年文庫)
思い出のマーニー〈下〉 (岩波少年文庫)









↑表紙の絵はロビンソン氏による挿絵に彩色したもの


これは個人的にはデカいです。。。非常にオリジナル感が高いです。
マニア的にも、所有する満足感があると思います。



ジブリ映画版も、この岩波少年文庫版が原作になっていますし(企画が立ち上がった時点で、この岩波版しか出版されていなかったので当然と言えば当然ですけど)、日本の「思い出のマーニー」における底本と言って良い存在なのではないでしょうか。
総合的な完成度というか、レベルは高い!と思います。






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