Ⅲ ちょぼらうにょぽみ作品の愛の魅力について

❸90年代の不条理ギャグ漫画ブームの意義とケン一の思い出語り 




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ちょぼらうにょぽみ作品と
ねこぢる作品、
相違点は『愛』だとのたまう
ミス・レモン。






ねこぢる

ねこぢる(本名:橋口 千代美:旧姓は中山、1967年1月19日 - 1998年5月10日)は、日本の女性漫画家。夫は同じく漫画家の山野一。
1990年『月刊漫画ガロ』誌6月号掲載の『ねこぢるうどん』でデビュー。1998年5月10日、東京都町田市の自宅にて首吊り自殺。31歳没。
 
Wikipediaより





その内容のエキセントリックさは
前回少しご紹介しましたが、


青林堂刊『ねこぢるうどん 2』より 




 
ちょぼらう作品との共通点は
タブーや倫理を無視する
孤高と狂気のアバンギャルド、
という点でしょうか。


 
そのねこぢる作品がブームになっていたのは90年代。。





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近年ではちょぼらうにょぽみ、あらゐけいいちとか。。。地獄のミサワ等に代表される不条理ギャグ漫画。
古くは赤塚不二夫などの偉大な先達によって発展したジャンル。

巡り巡って90年代は特に傑作が次々に登場し、一つの頂点を極めた時代でした。



伝染(うつ)るんです。 (1) (小学館文庫)
伝染(うつ)るんです。 (1) (小学館文庫) [文庫]
吉田 戦車
小学館
1998-11


ぼのぼの 1 (バンブー・コミックス)
ぼのぼの 1 (バンブー・コミックス) [コミック]
いがらし みきお
竹書房
1987-03


じみへん 仕舞 (コミックス単行本)
じみへん 仕舞 (コミックス単行本) [コミック]
中崎 タツヤ
小学館
2015-08-28


えの素(1) (モーニングコミックス)
えの素(1) (モーニングコミックス) 
榎本俊二
講談社
2012-11-12



。。などなど



その中で異彩を放っていたのが『ねこぢる』作品。
強い残虐性、暴力性。他の不条理ギャグとは一線を画す作風は漫画ファンの間でも一目置かれる存在でありました。



…1990年代後半「ねこぢるムーブメント」が起こる。当時は『ガロ』から東京電力のCMまで仕事の幅は非常に幅広かった。デフォルメされた無邪気な絵柄とは裏腹にシュールを通り越して最早狂気の域に達している残酷なストーリーとのギャップに若年層の支持も集めたとされている。
 
Wikipedia 『ねこぢる』の記事より



何故そこまでの支持を勝ち得たのか、
それは90年代という時代と共にねこぢる作品があったからだ!。。と思います。




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ワタクシはバブル崩壊以後に学生をやっておりました。。



その前触れとなった80年代は"飽食の時代"とも言われたバブル絶頂期。
 
 
金満的な、金銭のみによる社会の繁栄、そういうのはものスゴ~ク欺瞞に満ちた、まやかしのように見えたものです(私は思春期の少年でしたので…)。


本当は怖いバブル時代
本当は怖いバブル時代 [単行本]
鉄人社
2013-03-19

↑バブル時代のエピソードを知りたくて購入。金満バブルの姿を知る入門編の読み物として面白いです。




だから繁栄に安住することは不徳である。それはそのまま自らの自由な意思を限定するような、社会や日常は永劫の回帰のジレンマに陥っている牢獄のようなイメージがありました。



それまでの60年、70年代から続く反体制、時代に対するプロテストの流れもあって、それは『否』と言わなければならない、旧態依然とした社会やシステムというものは打破、破壊する対象である、という空気は世代を超えてあったように思います。
 
 
 
↓(当時話題になっていた映画は工藤夕貴さんの「台風クラブ」や宮沢りえさんの「ぼくらの七日間戦争」など。社会への抵抗や現状への畏れ、抑圧からの解放・浄化がテーマ)

台風クラブ [DVD]
台風クラブ [DVD] [DVD]
工藤夕貴
ジェネオン エンタテインメント
2001-06-22



ぼくらの七日間戦争 ブルーレイ [Blu-ray]
ぼくらの七日間戦争 ブルーレイ [Blu-ray] [Blu-ray]
宮沢りえ
角川書店
2012-09-28







そこへ降って湧いたかのように現れたバブル崩壊。社会は不透明さを増し、方向性を見失って。。。

今にして思えば、90年代は行き場を失った社会への破壊の衝動が色々な形をとって現実に現れ始めた時代でもあったのだなぁ。。。と思います。





例えば、社会においてはオウム事件。

「反支配」のカリスマでもあったミュージシャン尾崎 豊氏の死去。
「エヴァンゲリオン」のブーム。(ストーリーの最後は色んな意味で全てが灰燼に帰すッ。。。!)


そして「不条理ギャグ漫画」ブームもまたその一つ。







私が思う「不条理ギャグ漫画」表現に共通している特徴は『拒絶・アンチ』。
容易には誰にも理解出来ない表現やセンスで、共通の言語や認識を共有する事を拒絶・反立する。


それぞれ 朝日ソノラマ刊『ねこぢるだんご』 青林堂刊『ねこぢるうどん 1』より


特にねこぢる作品のあの攻撃性とか、残虐さが受け入れられたのは、常識や倫理を否定し尽くし、破壊し尽くし。。。

そしてその果てに信じるべき何かが見えて来るのではないかと、



言わば、破壊され、不浄となった地の底に咲く一輪の美しい草花、みたいな!?。



そこに残された希望を託すような、みんなそんな気分だったような気がします。







しかし、そんな事が出来たのも、それはどんなに忌避しようとも否定しようとも日常は理念のごとく存在し続ける筈だったからで、それは皮肉にも 。。。


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かつて皆が願望した通り、その日常は否定し尽くされ破壊し尽くされ、今や継続して存在を維持し続けているのかというと。。。甚だ疑問ではないかと思います。 



そんな現代に。。。




➍  新たなる希望



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ねこぢる作品の攻撃性も残虐性も、それは計算された緻密さがございました。(特に後期の作品)

しかしちょぼらう作品にはそういったものはありませぬ(いい意味で) 。
豊かな映像センスと、危うい前衛的センスによって下支えされているのがちょぼらう作品だと思います。
言い換えれば"狂気(本能)"の赴くまま(いい意味で!)。 


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↑ 竹書房刊 あいまいみー第三巻 より 





その狂気の本体は「愛」、と私は感じるのでありますの。
 
 

それは「処女」への愛であったり、「百合」への愛であったり、「お小水」への愛であったり、「マンガ」や「アニメ」への愛。。。


そして「家族」への愛。

 
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↑あいまいみー第四巻 より




創造の為にはまず「破壊」。だから理性としての愛を否定して普遍性を確認しようとするねこぢる作品に対して、

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↑青林堂刊 ねこぢるうどん2 より 



ちょぼらう作品の。。タブーのない狂気の作風は愛の肯定があって成立するので御座います。

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↑【ダメ母でごめん】第17話 エコバック② より







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ミィの歌唱力の素晴らしさに感動し、V字開脚で○ーガズムに達してしまうぽのか先輩も、 
(あいまいみー 第一巻 P79)


投稿用の漫画を描き上げ、希望に満ち溢れる表情をしていた愛ちゃんを見た為に、耳から血を噴出し舌を痙攣させながら嘔吐する麻衣も、 
(あいまいみー 第二巻 P84)


自分が大ファンだった声優めぐみんが非処女だった事を知り、ユニコーンに転生してしまう麻衣も、 
(あいまいみー 第六巻 P97)


美形の魔ーサーが男であることに驚愕し、『ナイスちんちん』と叫びながら股間を触るという中年女性的嗜好丸出しの湖の妖精エルも、 
(弱酸性ミリオンアーサー 1期(拡散性)第3話 ミリオンアーサー誕生!の巻) 



犬のおしりに塗られた蜂蜜につられ、そのまま『ズッポシ』という擬音とともに犬の肛門に頭部を丸ごと挿入した松嶋、それを動物虐待ではないかと心配するソメラも、 
(不思議なソメラちゃん第二巻 P105) 

 

 
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この二つが両立しているのがちょぼらう作品の"狂気"の特徴だと思います。






➎ 狂気とは本有のエロス



それを言い換えるなら。。。


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↑ あいまいみー 第一巻 より



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↑ あいまいみー第六巻より



本有の愛、つまりエロス。どう転んでいくか判らない強い愛、つまり狂気!


この危うさが ちょぼらうにょぽみ作品の狂気の魅力であり、他の不条理ギャグ漫画とは明らかに違う点だと思います。   




こうして考えてみると。。。

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作詞家のなかにし礼さんは、新聞のインタビュー記事の中でこう述べられています。




昭和の時代、エロスに満ちた恋の歌を書けること自体が、なかにしさんにとって「平和」だった。
「エロス、つまり人を愛するということは、それ自体が支配層の強いる『愛国心』への反逆だから。エロスは『個』を大事にすること。平和を守ること。エロスなき世界に平和はない」
 
毎日新聞2017年3月31日 東京夕刊 特集ワイド
『作家、作詩家・なかにし礼さんに聞く 自分の言葉、取り戻そう 「二重思考」から抜け出せ/エロスは平和を守ること』より
 




欲望が肥大化したコミュニティの常識や倫理を破壊し、反逆することで大切なものは何なのか確認しようとした80年代・90年代のゼイタクな時代。

そして、相次ぐテロや災害によって、共通の常識や紐帯は崩壊した2000年以降。 



それは『個』が押しやられ、実体のない『我』が肥大化している時代なのかも。


 『個』が、自己満足だけで終わってしまう、自己完結の『我』に変容してはいないか。。。





今にして思えば、かつて漫画ファンがねこぢる作品に感じた希望とは何だったのか何となく解るような気がします。

その希望の芽は、今も形を変えて生き続けているのではないでしょうか。。。









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かつての漫画ファンがねこぢる作品に感じた希望の芽は、それは遥かな昔からみんなが連綿と願い続けているもの。 




今もまた、ちょぼらうにょぽみ作品がそれを守る表現の一つである事は、間違いなかろうかと思います。 

 


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↓ あいまいみー 第一巻 P82より

 

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Ⅳ  ちょぼらうにょぽみ作品の感想             


最後に、ご参考までに私が読んだ主なちょぼらう作品のファン目線での感想を載せます。                 
最後までお読みいただきありがとうございました!m(_ _)m




「あいまいみー」

あいまいみー 1 (バンブーコミックス WIN SELECTION)
あいまいみー 1 (バンブーコミックス WIN SELECTION) [コミック]
ちょぼらうにょぽみ
竹書房
2010-08-27


ちょぼらうにょぽみ作品のなかで一番の人気作。
マニアックな「エロス」の部分と一般性のあるエンターテイメントのバランスが素晴らしいからだと思います。完成度は高い!
だから若干、万人向け。とっつき易い。
ちょぼらうにょぽみ漫画の入門編と言っていいのではないでしょうか。




「不思議なソメラちゃん」

不思議なソメラちゃん: 1 (4コマKINGSぱれっとコミックス)
不思議なソメラちゃん: 1 (4コマKINGSぱれっとコミックス) 
ちょぼらうにょぽみ
一迅社
2015-03-27

不思議なソメラちゃんオートクチュール: 1 (4コマKINGSぱれっとコミックス)
不思議なソメラちゃんオートクチュール: 1 (4コマKINGSぱれっとコミックス) 
ちょぼらうにょぽみ
一迅社
2015-12-24


「野乃本魔法拳」伝承者でニートの魔法少女、という設定はかなり独自性があって面白いと思うのですが、ちょっと「エロス」成分が足りないかな~、と感じる部分も。。。などとファンとしては思います。
しかし、「あいまいみー」と並んで、ちょぼらう作品中の双璧をなす存在。

未読の方は『あいまいみー』と『ソメラちゃん』はおススメだと思います。




「弱酸性ミリオンアーサー」

弱酸性ミリオンアーサー
弱酸性ミリオンアーサー [単行本]
ちょぼらうにょぽみ
KADOKAWA/エンターブレイン
2016-03-31


「あいまいみー」同様、原作への愛、下ネタ、そういった"エロス"のバランスがかなりファンタスティックな作品。
アンソロジーといえばファン同士の「原作ラブ」を共有することが最大の魅力だと思いますが、これは原作ゲームを全くプレイしたことのない私が読んでも楽しめるのがスゴイ。
単独の娯楽作品としても成立しているという意味で、商用アンソロジーの歴史始まって以来の傑作かも?



「まいてはいけないローゼンメイデン」

まいてはいけないローゼンメイデン (ヤングジャンプコミックス)
まいてはいけないローゼンメイデン (ヤングジャンプコミックス) [コミック]
ちょぼらうにょぽみ
集英社
2014-04-18


"エロ"な要素は無いのですが、暴走気味な展開がいかにもちょぼらうにょぽみ作品。
ちょぼらうにょぽみによるスラップスティックコメディ、として捉えると興味深いです。




「ちょぼらうにょぽみのとてもやわらかくてヘルシーな新聞部」

ちょぼらうにょぽみのとてもやわらかくてヘルシーな新聞部<ちょぼらうにょぽみのとてもやわらかくてヘルシーな新聞部> (角川コミックス・エース・エクストラ)
ちょぼらうにょぽみのとてもやわらかくてヘルシーな新聞部(角川コミックス・エース・エクストラ) 
ちょぼらうにょぽみ
KADOKAWA / 角川書店
2014-01-04


前回もご紹介しましたが、連載時二度にわたる雑誌休刊という混乱のためか、中盤ではもう設定とかストーリー展開は崩壊して、ただただ作者の本能的イマジネーションほとばしるお話が続くという。。。ものすごいフリーダムな作品です(しかし終盤では持ち直して作品としての体裁はちゃんと保っています)。
外的な要因で作品としての完成度に影響がでるのは残念な事ですが。。。しかしある意味、読んでいて一番面白いと思うのはこの作品です。





おわり


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