『レヴェナント:蘇りし者』
レヴェナント:蘇えりし者 [DVD]
レオナルド・ディカプリオ
20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン
2017-06-09
レオナルド・ディカプリオ、初のアカデミー主演男優賞受賞作品。
これを先日始めて見ました。。。
以前、記事で紹介致しましたが、レオ様の迫真の演技もさることながら、私は何よりもそのレオ様を(文字通り‥)完膚無きまでに叩きのめすハイイログマの戦闘力の高さとその表現のリアルさに打ちのめされたのでありました。
以前、記事で紹介致しましたが、レオ様の迫真の演技もさることながら、私は何よりもそのレオ様を(文字通り‥)完膚無きまでに叩きのめすハイイログマの戦闘力の高さとその表現のリアルさに打ちのめされたのでありました。
↑レヴェナント序盤のヤマ場 クマ。。。熊! (レヴェナント:蘇えりし者 [DVD]より)
そんな熊の獣害の描写を見ていて、私の脳裏に浮かんだのは『三毛別羆事件』でした。
三毛別羆事件
三毛別羆事件(さんけべつひぐまじけん)とは、1915年(大正4年)12月9日から12月14日にかけて、北海道苫前郡苫前村三毛別(現:苫前町三渓)六線沢で発生した、クマの獣害(じゅうがい)としては記録的な被害を出した事件。六線沢熊害事件(ろくせんさわゆうがいじけん)、苫前羆事件(とままえひぐまじけん)、苫前三毛別事件(とままえさんけべつじけん)とも呼ばれる。
エゾヒグマが数度にわたり民家を襲い、開拓民7名が死亡、3名が重傷を負った。事件を受けて討伐隊が組織され、問題の熊が射殺されたことで事態は終息した。
Wikipediaより
三毛別事件。。。百年以上前の北海道で起こった史上最悪と言われる獣害事件。
その恐ろしさというのは。。。
被害者の方々が『食害』されてしまった、という事でありまして。
脚など、体のほんの一部しか遺体として残らなかった被害者や、臨月の身重の女性も犠牲になったという。。。
脚など、体のほんの一部しか遺体として残らなかった被害者や、臨月の身重の女性も犠牲になったという。。。
人間の本能的な恐怖を呼び覚ますような事件だと思いました。。。
そんな事件の存在を知ったのは、幼いころテレビドラマで見たのが最初でした。
↑見たのは、80’に読売テレビ・東映で制作された 木曜ゴールデンドラマ『恐怖!パニック!!人喰熊 史上最大の惨劇 羆嵐』
事件の犠牲者である、臨月の身重だった斉藤タケさん(34)が避難先の明景家でヒグマに襲われた場面の描写↓
子供心に刻みつけられたその恐怖、おわかりいただけるでしょうか。。。
確か、斉藤タケさん役の女優さんの下腹部あたりを熊が咬んでいる(ように見える)描写だけだったと記憶しているのですが、しかし、
しかし、お腹の子供を守るため、「お腹は咬まないで」という事を女優さんが叫び続けていました。。。
この印象が強烈で、今もアタマに焼き付いているのであります。
‥執拗な熊はタケを見つけ、爪をかけて居間のなかほどに引きずり出した。タケは明日にも生まれそうな臨月の身であった。
「腹破らんでくれ!腹破らんでくれ!」「喉食って殺して!喉食って殺して!」
タケは力の限り叫び続けたが、やがて蚊の鳴くようなうなり声になって意識を失った。
木村盛武著 文春文庫刊『慟哭の谷 北海道三毛別・史上最悪のヒグマ襲撃事件』より
この、トラウマ級恐怖の思い出。。。
この、トラウマ級恐怖の思い出。。。
これが、『レヴェナント』でハイイログマにボッコンボッコンにされるレオ様を見ているうちに如実に蘇ってしまい。。。
リアルな熊はこんなに強いのかと。。。
リアルな熊はこんなに強いのかと。。。
熊に襲われる獣害事件は現代も頻繁に起こっていますが、被害に遭う恐怖と苦痛はいかばかりかと始めて現実感を持って考えてしまった訳であります。
そう思うと、何だかもっと三毛別事件についてもっと知りたい、他の獣害事件についても知りたいという欲求が高まり。。。
色々読んだり見たりしてしまいました↓
これらの作品の中から主なものの内容と感想をご紹介しますと、
『慟哭の谷 北海道三毛別・史上最悪のヒグマ襲撃事件』 (文春文庫)
木村盛武(著) 文庫
元林務官であるノンフィクション作家 木村盛武氏による作品。
この三毛別事件は、大正時代の発生時から詳細な記録が残される事もなく、昭和30年代頃には事件の存在は『遠く巷間から忘れ去られようとした』状態だったのだとか。
この三毛別事件は、大正時代の発生時から詳細な記録が残される事もなく、昭和30年代頃には事件の存在は『遠く巷間から忘れ去られようとした』状態だったのだとか。
林務官という職業柄この事件の真相を究明したいと考えていた木村氏は、事件の起こった苫前町を管区に持つ古丹別営林署に赴任になって後、事件の生存者や遺族、羆の討伐に関わった人などに粘り強い聞き取り調査を開始。
それをまとめ、『獣害史上最大の惨劇苫前羆事件』という調査記録の形で旭川営林局誌に掲載されたのが昭和39年。
この記録をきっかけに三毛別事件は『異彩を放つ数々の文芸作品に形を変え』、小説・テレビドラマ・演劇・ラジオドラマなど様々な媒体で広く世間に知れ渡る事になったようです。
私が読んだ文春文庫版はこれに加筆修正して再版されたもの(第1部 慟哭の苫前三毛別事件)。
私が読んだ文春文庫版はこれに加筆修正して再版されたもの(第1部 慟哭の苫前三毛別事件)。
さらに木村氏自身の林務官時代にヒグマと遭遇し九死に一生を得た体験談や、これまで起こった獣害事件を元に熊の生態についての解説なども併せて掲載されており(第2部 ヒグマとの遭遇)、三毛別事件・熊による獣害について知りたい、と思っていた私には大変興味深い内容でした。
第1部後半の加筆部分は話題が多岐に渡っている為、若干、すこーし内容的に散漫になっている印象も無きにしもあらずなのですが、しかし、事件の記録としての意義は非常に高いのであろうと思います。
『羆風(くまかぜ)』
(文庫化はされていないらしく、全集を買って読みました)
戸川幸夫動物文学全集〈6〉 講談社
戸川幸夫(著) ハードカバー
木村盛武氏の事件の調査報告『獣害史上最大の惨劇苫前羆事件』の少し後に発表された、三毛別事件の事実を正確に追った作品。
後で紹介します、漫画『野性伝説』の原作ということで読んだのですが、実は「戸川幸夫」という作家さんの事もよく知らず、動物文学というのも小学生の時読んだシートン動物記以来。
しかし読んでみて、大自然という視点で描かれる物語に新鮮な感動を覚えました。
主人公は「袈裟懸け」(三毛別を襲った羆の異名)自身。袈裟懸けの心情を語る形でストーリーは進んで行く。読んでいてスッと袈裟懸けの心情に入り込んで行けるのが面白い。
それは自然の世界の捉え方のリアリティの凄さなのだろうと思いました。
ストーリーで常に強調されているのが大自然のルール。
大自然には大自然の法が存在する。
羆も人間もその法に逆らって生きているつもりはなくとも、大自然は容赦なくルールを破った者を断罪する。
それは悲劇でも無く、ヒューマニズムも何もなく、その法の世界に人も羆も翻弄されているに過ぎないとも言えるかも。
その法とは何なのか。。。
それが本作品のテーマであり、それがラストに六線沢集落に吹き荒れる『羆風』というタイトルに込められているのではないかと思います。
ただし、この作品は短い短編なので終盤にかけての展開はちょっとだけ駆け足気味。
しかし読んでみて、大自然という視点で描かれる物語に新鮮な感動を覚えました。
主人公は「袈裟懸け」(三毛別を襲った羆の異名)自身。袈裟懸けの心情を語る形でストーリーは進んで行く。読んでいてスッと袈裟懸けの心情に入り込んで行けるのが面白い。
それは自然の世界の捉え方のリアリティの凄さなのだろうと思いました。
ストーリーで常に強調されているのが大自然のルール。
大自然には大自然の法が存在する。
羆も人間もその法に逆らって生きているつもりはなくとも、大自然は容赦なくルールを破った者を断罪する。
それは悲劇でも無く、ヒューマニズムも何もなく、その法の世界に人も羆も翻弄されているに過ぎないとも言えるかも。
その法とは何なのか。。。
それが本作品のテーマであり、それがラストに六線沢集落に吹き荒れる『羆風』というタイトルに込められているのではないかと思います。
ただし、この作品は短い短編なので終盤にかけての展開はちょっとだけ駆け足気味。
袈裟懸けの村への襲撃後はけっこうすぐに話が終わってしまい、漫画の『野性伝説』と比較すると若干の尻切れトンボ感を感じてしまうかも。
『羆嵐(くまあらし)』 (新潮文庫)
吉村昭 (著) 文庫
史実を元にした記録文学や歴史文学で有名な吉村昭氏による作品。
特に予備知識もナシ。三毛別事件をモデルにした本、という認識だけで読んだのですが。。。しかし、正直に言うとこの『羆嵐』が、事件を扱ったオリジナルの読み物としてはバランスが取れていて良い作品ではないかと思いました。
『羆風』とは対照的にこちらは人間に焦点が当てられた内容。
主人公と言えるのが、現実に羆を撃ち取った山本兵吉氏(作中では山岡銀四郎という名)。
強烈な個性を持ったキャラとして描かれ、この銀四郎と羆との対峙を中心に話は進行。
羆の討伐を依頼された銀四郎は、被害の甚大さに右往左往するだけの村民達をヨソに己の経験・信念をもとに羆に迫って行く。
フィクション作品なので、実際の事件からは少し脚色された内容になっているものの、しかしそこに写し出される事件の本質は脚色ではなく。。。
人間の弱さとそれを乗り越えようとする強靭さ、そこから人間のありよう、この事件の凄まじさの根っこが描き出されているようにも思いました。
これが記録文学なのだなぁ。と、思うのであります。
野性伝説 (1)(2)(3) (講談社漫画文庫―矢口高雄自然シリーズ)
戸川幸夫・矢口高雄 (著) 文庫
戸川幸夫原作の『羆風』のコミカライズ作品。
躍動感のある生き生きとした作画と共に、常に大自然を自在に描き切って来た矢口高雄作品の、ある意味集大成的な作品と言えるのではないかと思います。
ただ、『羆風』は短編なのでちょっと後半の展開に盛り上がりに欠ける。
そのためこの『野性伝説』、「慟哭の谷」的情報や「羆嵐」的ストーリー展開、矢口先生自身の独自取材も総合してストーリーが作られてあり、三毛別事件本の総決算、全部乗せ的な作品になっています。
ですので、お話そのものは原作の『羆風』からはかなりアレンジ。
フィクション作品なのでストーリーも事実から少し脚色(山本兵吉氏の描き方等)してあります。
しかしその内容のドラマチックさ、あわせて事件の色々な知られざる情報なども紹介されており、興味のある方は是非一読をおすすめしたい作品なのですが。。。
残念ながらこの作品は絶版になっているようで、古本でしか手に入りません。
比較的入手しやすいのが、写真で紹介している講談社から発刊された文庫版ですが、もともとは小学館から出たビッグゴールドコミックス版1~7巻がオリジナル。こちらはちょっと入手が困難。
↑『野性伝説』は全7巻。1・2巻「爪王」、「羆風」は3~5巻、6巻「北へ帰る」、7巻「飴色角と三本指」、いずれも戸川幸夫作品の劇画化。
私は1・2巻までしか持っていなかったので、、、どうせならオリジナル版が欲しいなどと思ってしまうのですが、しかし、講談社の文庫版は各巻巻末に矢口先生自身による制作秘話などのあとがきが載っているので、ここはちょっと捨てがたい魅力であります。
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