羊の木





観て来ました『羊の木』


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映画「羊の木」

監督 吉田大八
脚本 香川まさひと
原作 山上たつひこ:作
        いがらしみきお:画
漫画『羊の木』(イブニングKC)より

出演者 錦戸亮
                木村文乃
                北村一輝
                優香
                市川実日子
                田中泯
                松田龍平

音楽 山口龍夫





原作漫画は連載当時読んでおりましたが、『がきデカ』で有名なあのギャグ漫画家山上たつひこ先生が今は小説家としても活躍していると知って驚いたのを覚えております。



羊の木 コミック 全5巻完結セット (イブニングKC)
羊の木 コミック 全5巻完結セット (イブニングKC) [コミック]
山上 たつひこ
講談社
2014-05-23





内容も凄かった。



原作版のストーリー

内容紹介

とある日本の地方都市。
かつては海上交易で栄えた港町。名を魚深市という。
その町が、犯罪を犯し刑期を終えた元受刑者を地方都市へ移住させる政府の極秘プロジェクトの試行都市となる。
一般市民には何も知らせずに元受刑者の過去を隠し転入させるこのプロジェクトの全容を知るのは市長とその友人月末、大塚の3人のみ。
移住するは、凶悪犯罪を犯した11人の元受刑者。はたして、このプロジェクトの行方は!?


「講談社コミックプラス」『羊の木』紹介ページより
http://kc.kodansha.co.jp




地方都市に元受刑者を更生のために移住させるという、社会への皮肉めいた設定。
そのプロジェクトから次々に現れる疑惑、元受刑者たちの行動によって徐々に不穏な空気につつまれる魚深市というサスペンス。



最初に読んだ時は、月末と大塚の二人は市長の鳥原の友人というだけで、魚深市の職員でもなければ正式なブレーンでもない。なのに何でああも献身的にプロジェクトに関わり、協力するのかと思っていましたが、、、

羊の木 2-5

そのあたりは最後にプロジェクトの正体とともに理由がハッキリする。
この謎解き要素に引き付けられます。
(移住プロジェクトの真相に関しては、リアルに考えて若干ムリがあるのではないかという気もしますが)




さらに、『あんたらバカだろ!!』

と、ツッコミたくなるコメディ要素、


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↑『羊の木』第五巻より
(自主規制でモザイク処理 m(_ _)m )




いがらしみきお先生のユニークでオリジナリティあふれるデザインの絵の中に現れる、ドキッとさせられる描写。

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↑『羊の木』第一巻より






原作者山上たつひこ先生は、第一巻巻末に収録されている『「羊の木」誕生秘話対談』で、この作品のテーマについて以下のように語っております。




殺人を犯したすべての人間が問題なのではない。その中のあるタイプの加害者ですね。注視したいのは。でも、裁判はそれをふるい分けてくれないんだ。「羊の木」ではそれを書こうと思いました。元受刑者と市民の生理、皮膚感覚とのせめぎ合い。徹頭徹尾それを書こうと思った。ですから、地域社会の問題とか元受刑者の社会復帰とか罪とか赦しとか、そういう高尚なことは一切考えていないんです。(笑)






ワタクシ、ほぼ同時期に公開された映画『スリー・ビルボード』も観ました。
テーマは違うかも知れませんけれども、あの内容とちょっと相通ずるものがあるようにも思えました。


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映画『スリー・ビルボード』
監督 マーティン・マクドナー
脚本 マーティン・マクドナー
出演者  フランシス・マクドーマンド
             ウディ・ハレルソン
             サム・ロックウェル



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↑『羊の木』第五巻より





心に宿る怒り!

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諦観。



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↑ 『羊の木』第五巻




それを乗り越える、せめぎ合い。



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『羊の木』という言葉には、「羊」とは我々一人ひとり、そして我々が生きる、悪意が善行にも変わってしまうような複雑な現代社会への皮肉やあきらめといったキモチが表わされているのかなぁ、と感じました。

これらの山上たつひこ先生の現状認識、いがらしみきお先生の作画演出、二つの作家性が一体となって完成度の高い娯楽作品になっていると思います。






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ですので、映画版は、





この『羊の木』の、更生プロジェクトに隠された陰謀の解明というミステリー性と、個性あふれる元受刑者たちの不穏さによるサスペンス性。
人のありようの中から見出す希望。
これが再現されれば結構面白い映画になるのではないかと思っておったのですが。。。しかし、しかし、




しかし、映画版は。。。






謎解き要素は全てカット

(映画版では一応、移住更生プロジェクトは極秘プロジェクトという設定のようなのですが、物語上プロジェクトについての是非とか真偽に触れることは一切ナシ)





さらに、主人公は月末。

仏壇屋の店主の月末ではなく、魚深市の若手職員という設定の月末。

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映画化でそういう変更はよくあるハナシでしょうが、しかし映画版での月末はとにかく没個性的でフツーの青年として描かれています。




それは、謎解き要素がないために、物語の重点が元受刑者たちの個性の特異性や不気味さのインパクトを強調する方向に行っているからかと。。。


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↑ 映画「羊の木」公式ホームページより
http://hitsujinoki-movie.com/


全員元殺人犯になってます。(原作で出てくる元受刑者は計11名。このうち殺人犯は5名。)





これからの社会を予見するような不穏な設定と「元殺人犯という“究極の異物”との共生」というセンセーショナルテーマはそのままに、この傑作コミックが新たな物語としてスクリーンに登場する!


↑ 公式ホームページ「About the movie / Introduction」より
http://hitsujinoki-movie.com/




「全員元殺人犯」という設定とか、「信じるか疑うか」、“究極の異物”という言い方もセンセーショナルに振り過ぎではないのかなぁ、という気もします、が、、、
しかし、原作のテーマである「元受刑者と市民の生理、皮膚感覚とのせめぎ合い」という事から全く外れている訳ではないので、そういう演出も分かるのですが。

でもなんか釈然とはしない。




映画版での元受刑者たちは「市民の皮膚感覚」や「少しばかり多くの愛」で徐々にコミュニティに受け入れられていく。
要するに、一部の市民の良識と善意、『いいひと。』達の理解によって受け入れられていく訳です


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しかし、そもそも原作には「いいひと」は一人も出てこない。
アタマのおかしなキャラ総出演の原作と比べると、どうしても予定調和的に見えていささか物足りなさは感じる。





そんな中、唯一コミュニティから追い詰められ、破綻へと突き進んでしまうのが宮腰。


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↑ 宮腰役の松田龍平さん




この宮腰、原作とは全然違うキャラ。

原作の宮腰は『アンタ死んで当然!』と言いたくなるほどのクズキャラでしたが、映画版の宮腰は、元殺人犯ながらまじめに働き魚深の街に溶け込もうとする青年。


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それは、木村文乃さん演じるヒロイン石田 文(あや・月末の同級生)との関係においても主人公月末との間にさざ波を起こしてしまう。
(これに関しても、「羊の木」はそんな青春のほろ苦さを愛でるお話か?という気はしますが。)


そんなボタンの掛け違えが積み重なって月末と宮腰は追い詰められて行く。




まさにこの二人の関係は、テーマである「元受刑者と市民の生理、皮膚感覚とのせめぎ合い」を象徴しているのではないかと思うのですが、、、
クライマックスに向けてのオチのつけ方はどうにも主人公月末に都合のいい展開に見えてしょうがない。


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ラストでも重要なキーとなる、魚深に伝わる“のろろ”。原作の半魚人というよりはちょっとセキセイインコっぽいけど。。。






この映画、観終わって個人的に感じたトータルな感想は「予定調和的すぎ!!」という事で。。。




何故そうなるのかと考えましたが、よく調べたら主演の錦戸亮さんはジャニーズのアイドルさんなんですね。

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↑ NHKの大河ドラマ『西郷どん』にも出演されているし、俳優としてのキャリアもすごい方なんですね。。。知らなかった。


錦戸亮 
(にしきど りょう)

生年月日 1984年11月3日
出生地 日本・大阪府 門真市
身長 170cm
血液型 O型
職業 歌手・ギタリスト・俳優
ジャンル 音楽番組・テレビドラマ・映画・CM
活動期間 1997年 -
事務所 ジャニーズ事務所

Wikipediaより



そうか、、、ああ、そうか、、、

この映画は青春のほろ苦さを愛でる映画、出演者のタレント性を愛でる事も重要な要素の一つになっている映画なのか。。。
『アイドル映画』というのとはちょっと違うかもしれませんが。





そう考えるとこの映画は良い映画だと思いました。



原作のような、出てくる登場人物みんなハチャメチャで、不幸へ突き進んで行くような、現状を捉えるシビアさはない、しかし月末と宮腰の関係において原作のテーマはちゃんと踏まえてる。
なんで宮腰は追い詰められていったのか、、、とか、考えさせられます。




元受刑者役を演じる役者さん達の存在感も皆凄かった。
特に太田理江子役の優香さんの体当たり演技がマイ・フェイバリット。

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宮腰役の松田龍平さんのサイコパス的、デンジャラスな雰囲気も良かったです。
最近CMでよく見る弟さんとはまた全然違うタイプの俳優さんなのだなぁと実感。

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主人公月末を核として、ほのかなロマンスもあり、過激で怒涛の展開あり、脇を固める俳優さんたちの演技が合わさって、娯楽映画として成立しているのだなぁと解釈するべきか、、、と、思いました。




見方を変えればうまくまとまっている良い映画と言える、、、予定調和にも意義がある。
エンターテイメントは奥が深いようなそうでもないような。







ジャニーズファンの方には良い映画だと思います。


原作ファンには。。。おススメしませんけども、映画として観るなら比較するのがナンセンスなのですかね。。。



終わり