関連本を通してご紹介しております三毛別羆事件のあらまし。



過去記事! ↓





時は第一次世界大戦の最中 大正四年、所は北海道。

エサ不足のために六線沢開拓村に現れ、農作物を荒らした羆『袈裟懸け』は、




三毛別羆事件 4-4
矢口高雄著『野性伝説 羆風 』上巻(講談社漫画文庫)p65より



地元のマタギの駆除の失敗によって「手負い」の羆となってしまったのでありました。


三毛別羆事件 6-1
『野性伝説 羆風 』上巻 p116



とは言え、羆が過度に人里にまで侵入し、さらに人を襲ったという事例はそれまで殆ど無く、開拓民の人々もこの一件をあまり危険とは認識していなかったようです。




ですが、、、




三毛別羆事件 6-2
『野性伝説 羆風 』上巻 p131


傷を負った事が「袈裟懸け」にどういう影響をもたらしたのかは定かではないですが、、、


しかし、その結果は駆除の失敗より10日程経った、 12月9日に形となって現われたのであります。






その、史上最悪とされる獣害の経緯を、『野性伝説』や『慟哭の谷』の内容をご紹介しつつ追ってみたいと思います。



三毛別羆事件 6-4








大正四年十二月九日
運命の12月9日




それは六線沢開拓部落を流れる三毛別川の上流に位置する太田三郎さん宅で起こりました。


三毛別羆事件 7-1
『野性伝説 羆風 』上巻 p165より
集落で唯一、断熱効果の高い板囲いの家



『野性伝説』には開拓農家の配置図がのっていますが、

三毛別羆事件 7-2




太田家の家族構成は、家主の太田三郎さん(42)、寄宿人の長松要吉さん(59)、

 
三毛別羆事件 7-3



内縁関係にあった阿部マユさん(34)、里子として太田家で暮らしていた蓮見幹雄さん(7)の計四名でした。
三毛別羆事件 7-4
『野性伝説 羆風 』上巻 p146、p152より







十二月九日の朝八時ごろ、太田さんは三毛別川に架ける氷橋(すがばし・冬季用の橋梁)造りの出合い作業のため家から出発。

長松さん(通称オド)は朝早く、船のキール材伐採に裏山へすでに外出。


家に残っているのは阿部マユさん、蓮見幹雄さんの二人でした。



三毛別羆事件 7-5







その後、10時30分過ぎ——



三毛別羆事件 7-6

太田さんの知り合いの松永米太郎さんが乗り馬で太田家の付近を通りかかった際に、血痕を発見しています。


三毛別羆事件 7-7


この時、松永さんはマタギが狩猟したウサギを引きずりながら太田家に入り、一服しているものとばかり思っていたそうです。






三毛別羆事件 7-8








その後、オドが昼食のために太田家に戻ります。


三毛別羆事件 8-1
『野性伝説 羆風 』上巻 p200、p201


家の中からは返事もなく、静まり返っていました。





三毛別羆事件 8-2

薄暗い家の中では幹雄さんが囲炉裏端にじっと座って。。。

幹雄さんがふざけて寝たふりをしていると思ったオドは、肩に手をかけてみました。





すると。。。




三毛別羆事件 8-3
『野性伝説 羆風 』上巻 p204







幹雄の顔の下には固まった血が盛り上がり、しかも喉の一部は鋭くえぐられているのだ。
さらに側頭部には親指大の穴が開き、すでに息はなかった。


文春文庫刊 木村盛武著『慟哭の谷 北海道三毛別・史上最悪のヒグマ襲撃事件』p18より







三毛別羆事件 8-5






あまりにも惨たらしい有り様に呆然としながらも、オドは『マユ、マユはどこだ!』と、もうひとりいる筈の家族を呼ぶも返事はない。
そこにあるのは幹雄さんの遺体のみ。


賊による犯行や、マユさんが幹雄さんを殺害して逃亡した可能性も考えられたものの、いずれにせよただ事ではないと、オドは出合い作業現場の人たちに知らせるため急行。




三毛別羆事件 8-6
『野性伝説 羆風 』上巻 p216


開拓民の人々が太田家に戻り現場を調べるうち、およそ人間の仕業ではない、羆による凶行である事がはっきりしてきました。。。





三毛別羆事件 8-7


めちゃめちゃに破壊された窓。
荒らされた室内。
鮮血に染まった壁。。。




三毛別羆事件 8-8
『野性伝説 羆風 』上巻 p224




現場の形跡から、考えられる羆襲撃の状況は如何なるものであったか。


『慟哭の谷』には、太田家の被災の様子が概略図になって載っています。

三毛別羆事件 9-1



まず最初に羆は窓辺に吊るされたトウキビを狙って太田家に接近。

しかし、マユさん・幹雄さんのどちらかに発見され、騒ぐ声に逆上して窓から侵入したと考えられています。

三毛別羆事件 9-2




まず幹雄さんが撲殺され、囲炉裏のそばに遺体となって座り込み、、、

三毛別羆事件 9-3


羆は幹雄さんにはそれ以上興味を示さず、すぐにマユさんを襲ったようです。

それに対し、マユさんは必死の抵抗を試みた形跡が残っています。



三毛別羆事件 10-1-2


現場には囲炉裏から投げつけられたであろう燃えさしの薪が散乱し、血染めのマサカリも。



必死の反撃の様子がうかがえるものの、それもかなわず、、、





斧をもぎ取られて、マユは次の間へ逃げた。だがそこは板張りだけであった。必死になってその板壁を押し破ろうとした。血の手形がいっぱいついていてその様を物語っていた。爪のあともある。

戸川幸夫著『羆風』より



三毛別羆事件 10-3

三毛別羆事件 10-2



腹の減っていた羆はそこでマユの腹を裂いて喰った。それから彼女の体を曳きずって窓から山林内へ運んでいった。破られた窓には血とからみついた頭髪がべっとりと付着していた。

同上より



三毛別羆事件 12-4
『野性伝説 羆風』上巻 p229より


幹雄さんの体温、雪上の血痕の発見情報などから、被害の発生は午前十時半前後だということもわかってきました。








大正四年十二月十日
マユはどこだ!



三毛別羆事件 10-4-2






三毛別羆事件 10-5
↑ 『野性伝説 羆風』上巻 p251 より


羆の持つ習性である強い執着心を考慮すると「太田家は、すでに熊の所有下にあり、」(慟哭の谷75p)ふたたび集落に羆があらわれる可能性がある。
被害が拡大する事を防ぐためにも一刻も早く羆を駆除しなくてはならない。

さらに、マユさんも行方不明のまま。。。



そのため、




三毛別羆事件 10-6



実際に池田富蔵さん宅で羆を「撃ち洩らした二人」とは、苫前村三毛別に住むマタギ谷喜八さん、六線沢開拓部落に住むマタギ金子富蔵さんの二人。


この二人以外にマタギの人が三名加わり、計五名の銃手と近隣の若者を含め三十名あまりの捜索隊を結成。

翌十二月十日の朝より羆の足跡をたどり捜索を開始しました。




ところが。。。




三毛別羆事件 10-7



三毛別羆事件 10-8
↑ 『野性伝説 羆風』中巻 p74・p75 より



突然、唸りをあげて現れた羆に捜索隊は右往左往して逃げるだけで精一杯。
しかもマタギ達の銃は整備不良で多くは不発だったのだとか。



全く反撃も出来ずただただ恐慌状態に。。。


三毛別羆事件 11-1
           ↑ 『野性伝説 羆風』中巻 p87 より



無力感が 、かれらを襲った 。茶色いものは 、顔も岩石のように大きく 、胴体も脚も驚くほど太く逞しかった 。剛毛は風をはらんだように逆立ち 、それが地響きとともに傾斜を降下してきた 。その力感にみちた体に比して 、かれらは自分たちの肉体が余りにも貧弱であることを強く意識した 。

吉村昭 著『羆嵐』より




この時、はじめて当該 羆が「立ち上がったときの丈は馬匹(ばひつ)をしのぐ大きさで、胸には袈裟懸けといわれる大きな白斑を交えた」(慟哭の谷25p)巨大・凶悪な猛獣だと広く人々に認知される事となったのでありました。


三毛別羆事件 11-2







捜索隊は袈裟懸け羆の迫力に圧倒され、、、

三毛別羆事件 11-3-2




三毛別羆事件 11-4






そして。。。


三毛別羆事件 11-5-2
↑ 『野性伝説 羆風』中巻 p13・p98より


捜索隊は、袈裟懸け羆に遭遇した地点のすぐそばの雪中に、マユさんの遺体が埋められているのを発見しました。



三毛別羆事件 11-6
↑ 『野性伝説 羆風』中巻 p98 より
捜索隊がマユさんの遺体を発見し、その有り様に驚愕するシーン




くわえられてきたマユの体はこの場所で完膚無きまでに食い尽くされていた。残されていたのは、わずかに黒足袋と葡萄色の脚絆をまとった膝下の両足と、頭髪を剥がされた頭蓋骨だけであった。衣類は付近の灌木にまつわりつき、何とも言えぬ死臭が漂っていた。誰もがこの惨状にただただ息を飲むばかりであった。

戸川幸夫著『羆風』より







十二月十日、午後五時ごろにマユさんの遺体は太田家に戻りました。










三毛別羆事件 12-1-2



人の遺体を発見し、「わずかになってる」と驚愕する、『野性伝説 羆風』に出てくるこのシーン。
初めて読んだ時から、印象的な場面なので記憶に残っているのですが、このシーン、原作の小説『羆風』には出て来ません。

『わずか~』というやりとりは吉村昭氏の小説『羆嵐』に出て来ます。



三毛別羆事件 12-2-2





「少しだ」
大鎌を手にした男が、眼を血走らせて言った。
「少し?」
区長が、たずねた。
「おっかあが、少しになっている」
男が、口をゆがめた。区長たちは、雪の附着している布包みを見つめた。遺体にしては、布のふくらみに欠けていた。
大鎌を雪の上に置いた男が、布の結び目をといた。区長たちの眼が、ひらかれた布の上に注がれた。
かれらの間から呻きに似た声がもれた。顔をそむける者もいた。それは、遺体と呼ぶには余りにも無残な肉体の切れ端にすぎなかった。頭蓋骨と一握りほどの頭髪、それに黒足袋と脚絆をつけた片足の膝下の部分のみであった。
「これだけか」
区長が、かすれた声でたずねた。
男たちが、黙ったままうなずいた。

吉村昭著『羆嵐』より



ここに出てくる”区長“とは、「羆嵐」の物語の狂言回し的役割で出てくる六線沢集落の責任者です。




やはり、『羆嵐』は描写に手慣れた感があると言いますか、、、読み物として非常に読みやすいですし引き込まれます。







三毛別羆事件 関連本 色々読む ④ 通夜の亡霊 に続く!



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