三毛別羆事件 10-1-2

 

現場には囲炉裏から投げつけられたであろう燃えさしの薪が散乱し、血染めのマサカリも落ちていたそうです。



必死の反撃の様子がうかがえるものの、それもかなわず、、、





斧をもぎ取られて、マユは次の間へ逃げた。だがそこは板張りだけであった。必死になってその板壁を押し破ろうとした。血の手形がいっぱいついていてその様を物語っていた。爪のあともある。

戸川幸夫著『羆風』より



三毛別羆事件 10-3

三毛別羆事件 10-2



腹の減っていた羆はそこでマユの腹を裂いて喰った。それから彼女の体を曳きずって窓から山林内へ運んでいった。破られた窓には血とからみついた頭髪がべっとりと付着していた。

同上より引用



三毛別羆事件 12-4
↑ 講談社漫画文庫 矢口高雄著『野性伝説 羆風』上巻 p229より


幹雄さんの体温、雪上の血痕の発見情報などから、被害の発生は午前十時半前後だということもわかってきました。








大正四年十二月十日
マユはどこだ!



三毛別羆事件 10-4-2






三毛別羆事件 10-5
↑ 『野性伝説 羆風』上巻 p251 より


羆の持つ習性である強い執着心を考慮すると「太田家は、すでに熊の所有下にあり、」(慟哭の谷75p)ふたたび集落に羆があらわれる可能性がある。
被害が拡大する事を防ぐためにも一刻も早く羆を駆除しなくてはならない。

さらに、マユさんも行方不明のまま。。。



そのため、




三毛別羆事件 10-6



実際に池田富蔵さん宅で羆を「撃ち洩らした二人」とは、苫前村三毛別に住むマタギ谷喜八さん、六線沢開拓部落に住むマタギ金子富蔵さんの二人。


この二人以外にマタギの人が三名加わり、計五名の銃手と近隣の若者を含め三十名あまりの捜索隊を結成。

翌十二月十日の朝より羆の足跡をたどり捜索を開始しました。




ところが。。。




三毛別羆事件 10-7



三毛別羆事件 10-8
↑ 『野性伝説 羆風』中巻 p74・p75 より



突然、唸りをあげて現れた羆に捜索隊は右往左往して逃げるだけで精一杯。
しかもマタギ達の銃は整備不良で多くは不発だったのだとか。



全く反撃も出来ずただただ恐慌状態に。。。


三毛別羆事件 11-1
           ↑ 『野性伝説 羆風』中巻 p87 より



無力感が 、かれらを襲った 。茶色いものは 、顔も岩石のように大きく 、胴体も脚も驚くほど太く逞しかった 。剛毛は風をはらんだように逆立ち 、それが地響きとともに傾斜を降下してきた 。その力感にみちた体に比して 、かれらは自分たちの肉体が余りにも貧弱であることを強く意識した 。

吉村昭 著『羆嵐』より




この時、はじめて当該 羆が「立ち上がったときの丈は馬匹(ばひつ)をしのぐ大きさで、胸には袈裟懸けといわれる大きな白斑を交えた」(慟哭の谷25p)巨大・凶悪な猛獣だと広く人々に認知される事となったのでありました。


三毛別羆事件 11-2







捜索隊は袈裟懸け羆の迫力に圧倒され、、、

三毛別羆事件 11-3-2




三毛別羆事件 11-4






そして。。。


三毛別羆事件 11-5-2
↑ 『野性伝説 羆風』中巻 p13・p98より


捜索隊は、袈裟懸け羆に遭遇した地点のすぐそばの雪中に、マユさんの遺体が埋められているのを発見しました。



三毛別羆事件 11-6
↑ 『野性伝説 羆風』中巻 p98 より
捜索隊がマユさんの遺体を発見し、その有り様に驚愕するシーン




くわえられてきたマユの体はこの場所で完膚無きまでに食い尽くされていた。残されていたのは、わずかに黒足袋と葡萄色の脚絆をまとった膝下の両足と、頭髪を剥がされた頭蓋骨だけであった。衣類は付近の灌木にまつわりつき、何とも言えぬ死臭が漂っていた。誰もがこの惨状にただただ息を飲むばかりであった。

戸川幸夫著『羆風』より







十二月十日、午後五時ごろにマユさんの遺体は太田家に戻りました。










三毛別羆事件 12-1-2



人の遺体を発見し、「わずかになってる」と驚愕する、『野性伝説 羆風』に出てくるこのシーン。
初めて読んだ時から、印象的な場面なので記憶に残っているのですが、実はこのシーン、原作の小説『羆風』には出て来ません。

『わずか~』というやりとりは吉村昭氏の小説『羆嵐』に出て来ます。
他の書籍には一切出てこない描写なので、吉村昭氏によるオリジナルのシーンかも。



三毛別羆事件 12-2-2




「少しだ」
大鎌を手にした男が、眼を血走らせて言った。
「少し?」
区長が、たずねた。
「おっかあが、少しになっている」
男が、口をゆがめた。区長たちは、雪の附着している布包みを見つめた。遺体にしては、布のふくらみに欠けていた。
大鎌を雪の上に置いた男が、布の結び目をといた。区長たちの眼が、ひらかれた布の上に注がれた。
かれらの間から呻きに似た声がもれた。顔をそむける者もいた。それは、遺体と呼ぶには余りにも無残な肉体の切れ端にすぎなかった。頭蓋骨と一握りほどの頭髪、それに黒足袋と脚絆をつけた片足の膝下の部分のみであった。
「これだけか」
区長が、かすれた声でたずねた。
男たちが、黙ったままうなずいた。
吉村昭著『羆嵐』より



ここに出てくる”区長“とは、「羆嵐」の物語の狂言回し的役割で出てくる六線沢部落の責任者です。




やはり、『羆嵐』は描写に手慣れた感があると言いますか、、、読み物として非常に読みやすいですし引き込まれます。







④に続く!



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