十二月十日午後八時五十分頃
修羅場と化した明景家





三毛別羆事件 4-10
↑ 『野性伝説 羆風』中巻 p185 より



そして8時50分頃、明景ヤヨさんが救援隊の夜食であるカボチャ煮を大鍋で作っている最中——。




戸のところでドシンと体をぶっつける音がしたので梅吉を負ぶって仕事をしていたヤヨは隣の部屋から大きな声で、
「誰だね?宮本さんかね?嚇かすもんじゃないよ」
と声をかけながら南瓜の鍋をかかえて皆のいる部屋に入ってきた。
(『羆風』より)




次の瞬間——




三毛別羆事件 4-15





激しい物音と地響きをたて、巨大な黒い塊が家の中になだれ込んできたのである。
(『慟哭の谷』より)




三毛別羆事件 4-25
↑ 『野性伝説 羆風』中巻 裏表紙より


黒い塊とは「袈裟懸け」。


明々と火が灯る家の様子に、獲物である人間がいると判断したのか、最初に襲ったマユさんと同じ女性のニオイを嗅ぎ取ったのか、袈裟懸け羆は明景家に襲い掛かったのでありました。



三毛別羆事件 4-16


まず、袈裟懸けは窓から侵入し、明景ヤヨさんは土間に逃げようとしたものの、恐怖にかられた次男の勇次郎さんが腰に抱きつき、ヤヨさんは転倒。


三毛別羆事件 4-17



ここで袈裟懸けに襲われ、背中に負ぶっていた四男の梅吉さんの足や腰、ヤヨさんの頭部に噛み付き、二人は重傷を負ったそうです(梅吉さんはこの時の傷が原因で二年八か月後に死亡)。

三毛別羆事件 4-18





”オド“長松さんはこの隙に玄関から外へ逃げようとしたのですが、それに気付いた袈裟懸けは即座に襲う対象をヤヨさんから長松さんに変更。
袈裟懸けはヤヨさん親子から離れ、逃げようとする長松さんに襲い掛かったそうです。

三毛別羆事件 4-20




熊はオドの腰の辺りに激しく咬みかかり、尻から右股の肉をえぐりとり、右手に爪傷を負わせた。
「うわあ!!」
体が引き裂ける痛みにオドは絶叫した。
(『慟哭の谷』より)




この間にヤヨさん親子は家屋から脱出。
ヤヨさんは重傷を負いながらも、勇次郎さんと共に九死に一生を得たのでありました。

三毛別羆事件 4-19
↑ 『野性伝説 羆風』中巻 p216 より




一方、袈裟懸けは長松さんの絶叫に驚いたのか長松さんから離れ、居間で恐怖におののいていた明景金蔵さん、斉藤巌さん、春義さん兄弟へと攻撃の矛先を変えたのでした。


三毛別羆事件 4-21






ここで熊は明景金蔵を一撃の下に叩き殺し、怯える斉藤巌、春義兄弟を襲った。巌は瀕死の傷を負い、春義はその場で叩き殺された。
(『慟哭の谷』より)






三毛別羆事件 4-26




この事件での犠牲者は女性と幼い子供ばかり。。。
そして、最大の悲劇とも言えるのは。。。




居間で襲われたのは明景金蔵さん、斉藤巌さん、斉藤春義さんの3人。
この他に斉藤タケさん、明景力蔵さんの2人は家の隅にある野菜置場に身を隠して一時的にも難を逃れていました。

三毛別羆事件 4-22






しかし、斉藤タケさんには実の息子である巌さん、春義さんが羆に殺害されて行く様子を物陰で黙って見過ごす事など出来る訳がなかったのではないでしょうか。。。




思わずムシロから顔を出してしまい、


三毛別羆事件 4-23
↑ 『野性伝説 羆風』中巻 p222 より



そこを袈裟懸けは目ざとく見つけタケさんを居間に引きずり込んだそうです。。。


三毛別羆事件 4-24
↑ 『野性伝説 羆風』中巻 p223 より




そして、臨月で間もなく出産を控えていたタケさんもまた袈裟懸けの犠牲に。。。






「腹やぶらんでくれえ……。はら破らんでくれえ……。
咽喉を喰ってくれえ……。のど喰って殺せえ……」
(『羆風』より)




自分の腹を守ろうと、タケさんの絶叫が明景家に響き渡ったそうです。




熊はタケの腹を引き裂き、うごめく胎児を土間に掻きだして、やにわに彼女を上半身から食いだした。
(『慟哭の谷』より)








衝撃的なこの場面は、漫画『野性伝説 羆風』でも描写されています。


迫力のシーンですので、出来れば直に皆さまの手にとって見て頂きたいので、その場面を引用して紹介するのは控えますが、私にとってこの場面は、、、




『主は与え、主は奪う』
なんて言葉も旧約聖書には有りますが、、、
そういった意味合いを想起する、そういうシーンであります。






三毛別羆事件 4-27



それが皆の心に宿る、かなしい根源的な共感を呼び起こすからこそ、事件の起こった大正時代より百年も経った今もまた三毛別事件は語り継がれているのではないか。。。という気がします。






④-3 につづく