十二月十日午後九時五十分頃
魔の一時間
この時、救援隊は異変を察知し太田家より急行、明景家を包囲していました。


↑ 『野性伝説 羆風』中巻 p234・235 より
しかし、明景家から漏れてくる音は、、、

↑ 『野性伝説 羆風』中巻 p240 より
バリバリ、コリコリ……
あたかも、猫が鼠を食う時のような、名状しがたい不気味な音がする。
(『慟哭の谷』より)人の骨を砕く音、さらに被害者の呻き声、泣き声、叫び声も。。。

↑ 『野性伝説 羆風』下巻 p14・15 より
しかし、羆は屋内のどこにいるか分からず、むやみに家屋に向かって銃を発砲すれば生存者に当たる可能性もあり全く手出しが出来ず、そのまま一時間ほどの時間が経過してしまいました。
まさに『魔の一時間』。。。
やがて、『熊が屋内をまさぐる鈍い音だけが聞こえるようになった』(「慟哭の谷」)タイミングで、銃を威嚇発砲し袈裟懸けを家から追い出す事には成功。


↑ 『野性伝説 羆風』下巻 p37 より
絶好の撃ち取るチャンスだったのですが、なんと間近の射手の銃が不発。
そのまま袈裟懸けは『家を背にしながら悠然とした足どりで暗闇に消え』(「慟哭の谷」)、他の射手も家に向かって発砲するのは躊躇せざるを得ず、またも捕り逃してしまったのでした。


救援隊が救助のために明景家に踏み込んだ時には、家の中は惨憺たる状態でした。

部屋の中は一面が血の海、荒らされて足の踏み場もなく、血しぶきは天井裏まで飛び散り、死臭が充満していた。まさにこの世のものとは思えぬ地獄絵である。
(『慟哭の谷』より)
被害者の斉藤タケさん(34)の体は右半身部を中心に、

↑ 『野性伝説 羆風』下巻 p44 より
部屋の中は一面が血の海、荒らされて足の踏み場もなく、血しぶきは天井裏まで飛び散り、死臭が充満していた。まさにこの世のものとは思えぬ地獄絵である。
(『慟哭の谷』より)
被害者の斉藤タケさん(34)の体は右半身部を中心に、
見る影もないまでに食い尽くされていた。胎児はかすかに母体とつながり、奇跡的に無傷だったが一時間後に生き絶えた。
(『慟哭の谷』より)
斉藤春義さん(3)、明景金蔵さん(3)も身体の多くの部分を食害され死亡していました。
タケさん、春義さん、金蔵さん共に並んで、獲物を隠すように荒ムシロや布団で覆われていたそうです。
斉藤巌さん(6)は、救援隊に発見された時は意識があったのですが、臀部を骨が露出するまでの傷を負い、『おっかあ!熊獲ってけれ!』『水!水!』(「慟哭の谷」)といううわ言を叫びながら、約二十分後に亡くなりました。
しかし、雑穀俵の陰に隠れていた明景力蔵さん(10)と、就寝のために布団の中にいた明景ヒサノさん(6)の二人は奇跡的に羆には見つけられず、命拾いする事が出来たのでした。

↑ 『野性伝説 羆風』下巻 p48 より
この、生存者の証言によって明景家での惨劇の様子が記録に残される事になったのであります。
三毛別事件での人的被害は以上で、成人女性二名、子供五名の計七名が死亡。
重傷者は三名、このうち明景梅吉さんは羆による咬創の後遺症によって二年八か月後に死亡。
この梅吉さんと斉藤タケさんの胎児も死亡者に含めれば計九名の尊い命が犠牲になりました。
しかし、ここまで事件の経緯を見ていると、本当に大自然は私たちに恵みを与え、そして奪うのだという事を痛感すると言いますか。。。
野生動物によって、女性や子供ばかりが犠牲になるというこの悲劇を見るにつけ、その意味は何なのかと考えてしまいます。

その後、事件は袈裟懸けが人間に討伐される形で収束、終息に向かう訳ですが。。。
それは袈裟懸けにとっての破綻でもあるわけですが。
ここでの展開も、色々考えさせられるものがあります。
しかし、ここまで事件の経緯を見ていると、本当に大自然は私たちに恵みを与え、そして奪うのだという事を痛感すると言いますか。。。
野生動物によって、女性や子供ばかりが犠牲になるというこの悲劇を見るにつけ、その意味は何なのかと考えてしまいます。

それが人々の心の奥に宿る、根源的な共感を呼び起こすからこそ、事件の起こった大正時代より百年も経った今もまた、三毛別事件は語り継がれているのではないか。。。という気がします。
その後、事件は袈裟懸けが人間に討伐される形で収束、終息に向かう訳ですが。。。
それは袈裟懸けにとっての破綻でもあるわけですが。
ここでの展開も、色々考えさせられるものがあります。
キーマンとなるのが、実際に袈裟懸け羆を撃ち取った『サバサキの兄』との異名を持つ山本兵吉さん。
『羆嵐』は銀四郎の存在を中心に物語は進んで行き、人の心の奥に宿る弱さと悲しみに大きくクローズアップする内容になっている、、、と思います。
そこが、勝者のいない哀しい戦争とも言えるこの事件を表していると思うのであります。

⑤ 『羆嵐』&三毛別事件関連作品の感想 につづく!
吉村昭著 小説『羆嵐』では「山岡銀四郎」の名で登場します。
『羆嵐』は銀四郎の存在を中心に物語は進んで行き、人の心の奥に宿る弱さと悲しみに大きくクローズアップする内容になっている、、、と思います。
そこが、勝者のいない哀しい戦争とも言えるこの事件を表していると思うのであります。

⑤ 『羆嵐』&三毛別事件関連作品の感想 につづく!
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