三毛別羆事件 5-50







平凡な、一個の老いたヒーロー




例えば、歌手のさだまさしさん。
さだまさしさんは二十歳代の時に制作した映画のために約三十億円もの借金を作ってしまい、以来ずっと返済に追われる生活だったのだとか。
五十代終わりでやっと借金を返し終わり、もう六十歳になったら音楽活動からは引退しようかと思っていたところに東日本大震災を経験し、その考えは変わったといいます。




被災地を見て、これがなぜ僕の身に起きなかったのか、いつ起きてもおかしくないのに、自分の人生を自分で制御するのは傲慢(ごうまん)だと。未来を見続け、生かしていただいている道を走るしかなかろう。そう決めてから、音楽上の終活は一切考えません。

朝日新聞 2018年12月7日朝刊 『(語る 人生の贈りもの) さだまさし:15』より




『死』とか『無常』を人生の中に意識したからこそ、川の流れのように生きて行く事を決めた。。。とは、根本の部分では銀四郎もまた同じように私には見えます。



マタギの生活に糧を求め、死の恐怖と対峙しながら自然の掟に従い生きる。それは妻に逃げられ、過酷な北海道の大地で一人マタギとして生きていく者のプライドだったのかも。
それに対し共同体の中での生活を送る集落の人々との対比が小説『羆嵐』での中心的なモチーフになっていると思います。





三毛別羆事件 5-51



三毛別羆事件 5-52

三毛別羆事件 5-52.5



三毛別羆事件 5-53









三毛別羆事件 5-54
新見南吉著 『でんでんむしのかなしみ』より



三毛別羆事件 5-55
黒澤明監督作品 映画『乱』より









かれは、妻に逃げられ、子供にも去られた寂寥をいやすように、酒を飲むこともせず羆を追って山中を歩きまわるのだろう。
 犬の毛皮をかぶって寝ている銀四郎が、平凡な一個の老いた男にみえた。

吉村昭著 『羆嵐』より





三毛別羆事件 5-57




三毛別羆事件 5-58



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三毛別羆事件 5-60


三毛別羆事件 5-60.1



三毛別羆事件 5-65






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面倒ごと、イヤなこと、究極には『死』から逃れる事が文明的生活、、、でしょうか。
『村の人々』とは私の事でもあるような。





『羆嵐』の結章には、その後の六線沢の変遷と、事件後も自然の中でマタギとしての生き方を貫いた銀四郎の姿が描写されています。

三毛別羆事件 5-64




住む人もいなくなった現在の六線沢と、これまた対照的に見えます。


三毛別羆事件 5-18





事件のあらましを見て思うのは、羆も人も、死の恐怖に翻弄されて身も心も、色んな要素がバラバラになった挙句、ついには大自然との繋がりをも失ってしまう。三毛別事件とは、そんな者同士に起こった悲劇のような気がします。
まるでボクシングの試合が場外乱闘にまでエスカレートした上に、結局両者反則負けで終わってしまったような、、、そんな虚しさを感じます。
ヘンな例えですけど。




かと言って、色んな繋がりを確認するために「自然に還る」ネイチャー生活に突入するなどという面倒くさい事も出来ない私には何とも難解な問題。


めんどくさい、と思うココロが最大の問題なのか、、、
心持ちを少し転換するだけでも世界は変わるのでしょうか。

そんな気もするのでした。











最後に!



他にも獣害を題材としたフィクション作品は色々あるんですね、、、熊のパニック物になるとかなりの数があるようですが。
私が観た、読んだ作品の概要と感想を簡単にご紹介致します。




キムンカムイ―Nature panic drama (1) (少年マガジンコミックス)
キムンカムイ―Nature panic drama (1) (少年マガジンコミックス) [コミック]
三枝 義浩
講談社
1999-07


中学一年生の幼馴染の男子三人が、渓流釣りのために数年ぶりに訪れた北海道黒土山。しかしそこに凶悪な人喰い羆が現れる…!
 『慟哭の谷』の著者である木村盛武氏監修の作品で、そのテーマは三毛別事件と相通ずるものがあると思いました。恐怖と隣り合わせ、死と隣り合わせの大自然や人間の在り方のリアリズムを描く動物パニックアクション作品の名作だと思います。




あの頃映画 「リメインズ 美しき勇者たち」 [DVD]
 「リメインズ 美しき勇者たち」 [DVD] 
SHOCHIKU Co.,Ltd.(SH)(D)
2011-12-21

監督 千葉真一 
出演者 真田広之 村松美香 菅原文太


“赤マダラ”の異名を持つ人喰い大熊を追う若いマタギと、赤マダラに親兄妹を殺され、復讐に燃える少女。この両者の赤マダラとの闘いを描くアクション巨編。
三毛別事件を題材とした作品ですが、世界的アクション俳優である千葉真一氏の初監督作でもあり、あくまで内容は「アクション映画」。「赤マダラ」≠「袈裟懸け」で、純粋に主演の真田広之さんを始めとするアクション俳優さん達の美技を楽しむ映画、です。おそらく。




ゴースト&ダークネス [DVD]
ゴースト&ダークネス [DVD]
Paramount
2001-02-23

監督 スティーヴン・ホプキンス
出演者 マイケル・ダグラス   ヴァル・キルマー


"ツァボの人食いライオン"(19世紀イギリス領東アフリカで、雄ライオン2頭によって鉄道建設作業員28名が犠牲になった獣害事件)の史実を題材にした映画作品。内容はパニック物というよりもヒューマンドラマに近いと感じました。
人喰いライオンの脅威に立ち向かう工事主任パターソン大佐役のヴァル・キルマーの物静かでマジメそうな姿。それと、ちょいワルですっごいいい加減そうな腕利きハンター、レミントン役のマイケル・ダグラス。この二人の対照的な演技が良かったです。




人喰鉄道 (ランダムハウス講談社文庫 と 1-3 戸川幸夫動物文学セレクション 3)
人喰鉄道 (ランダムハウス講談社文庫 と 1-3 戸川幸夫動物文学セレクション 3) [文庫]
戸川 幸夫
武田ランダムハウスジャパン
2008-06-10


"ツァボの人食いライオン"事件を、戸川幸夫氏が現地での綿密な取材を基に小説化したもの。初出は1968年。…なのですが、『羆風』とか『高安犬物語』といった戸川氏の代表的動物文学作品と比べると、内容はパターソンの苦闘を賞賛するような筋立てで、動物描写よりも人間に焦点が当てられている。戸川作品としての特徴は若干控えめ?に見えました。読み物としては面白いし、読みやすいのですが…

戸川幸夫 著 『人喰鉄道』を読む 【本の感想】



終わり