人食鉄道 01-1











人喰鉄道 (1976年) (旺文社文庫) [文庫]
戸川 幸夫
旺文社




 "ツァボの人食いライオン"事件を、戸川幸夫氏が現地での取材を基に小説化したもの。初出は1968年。
戸川 幸夫(とがわ ゆきお、1912年4月15日 - 2004年5月1日)は、日本の小説家、児童文学作家。
動物に関する正しい観察・知識を元にして動物文学を確立させ、日本においては椋鳩十と並ぶ第一人者(特に闘犬に関する作品が多い)。
それまでは噂のみの存在だったイリオモテヤマネコの標本を今泉吉典にもたらし、新種発見に大きく貢献したことでも知られる。ルポルタージュ、戦記物語などの作品もある。漫画原作を手がけたこともある。
Wikipediaより


三毛別羆事件関連の作品をいくつか読むうちツァボ事件の事も知り、読んでみました。


時は十九世紀、未開の地アフリカに文明の光をもたらすべく建設が開始されたモンバサ鉄道。その技術者としてインドより派遣された青年J.L.パターソンは、やがて建設事業の責任者となり、行く手を阻む過酷なアフリカの大自然、その中でも最大の障壁である人食いライオンの恐怖とも立ち向かう事になる……というお話。

ツァボの人食いライオン(ツァボのひとくいライオン、英: Tsavo Man-Eaters)は、1898年3月から同年12月にかけてイギリス領東アフリカ(現:ケニア)のツァボ川付近で発生した2頭の雄ライオンによる獣害事件である。ケニア-ウガンダ間のウガンダ鉄道敷設によるツァボ川架橋工事中に人食いライオンが現れ、少なくとも28名の労働者が犠牲になった。2頭は鉄道現場総監督のジョン・ヘンリー・パターソンによって射殺され、後に剥製となってシカゴのフィールド自然史博物館に展示された。
Wikipediaより




文章量は結構多めで、私が読んだ旺文社文庫版は3㍉ぐらいの小さめの活字で一頁約800文字。それで全編約500ページ!
…なのですが、読みやすい(もしくは「わかりやすい」?) お話なのでスルスルっと読破できてしまうのではないかと思います


私が読んだ他の戸川幸夫作品は、「羆風」、「高安犬物語」とか「爪王」など…

高安犬物語/爪王 (地球人ライブラリー)
高安犬物語/爪王 (地球人ライブラリー) [単行本]
戸川 幸夫
小学館
1994-08-01



それらを読んで感じたのは、作者自身の豊富な経験から来る、大自然に生きる生き物の強さ・弱さ・厳しさに対する透徹したリアリズム…だと思うのですが、この『人喰鉄道』には何故かそういった視点があまり感じられない。

(ヾノ・ω・`)イエ、全く無いわけではないんです。アフリカの雄大な大地や動物達の息遣い、そういう空気感を感じる物語で、ひとつひとつの描写にウソ臭さは感じない、そこの表現には非常に筆力を感じるのですが……しかし。
何といっても他の戸川作品には見られる動物の心情にまで迫るような緻密な描写が殆ど無い。
この作品の主軸となるのは、人間の浅ましい欲望の為に傷つけられたライオンが人食いライオンと化してしまう所にあるのですが、ここで描かれる人食いライオンとは、ただひたすらに人間を喰いまくる、人類に敵対するエイリアンのような存在でしかない。


ここは『羆風』などとはずいぶん違う描き方で…。どうもこの作品の主眼は、動物を含めたキャラクター達の葛藤よりも、ツァボの人食いライオンを初めて日本に伝えたという事、さらに謎の大陸と言われたアフリカの大地での自然の驚異や、己の小さな欲望に振り回される小賢しい人間達と戦った、パターソンという一人の人間が持つ可能性、強さ、情熱を表現する事にあるみたいです。


…つい、私は『羆風』等と比較して読んでしまったので若干の違和感を感じてしまったのですが、あくまで大衆文芸作品という意味では、標準的と言うか面白い読物です。
アフリカの大自然を舞台に闘う主人公のパターソン。そのテンポの良い活躍は読むうちに引き込まれます
登場人物も、パターソンと恋人として登場するミシェル、その他一部の例外を除くと…ちょっと馬鹿なキャラクターが多すぎるのではないかという気がしないでも無いですが、勧善懲悪の時代劇を見ているが如き安定感を持って読み進める事が出来るかと思います。